春の風が街を優しく撫でていた。
バスの窓からぼんやりと外を眺めながら、私は思う。
この街は変わっていく。
取り壊された喫茶店の跡地に、無機質なビルが立ち並ぶ。
季節は変わり、人も環境も、常に流れの中にある。
だというのに、私は――
「……私は、何も変われていないんじゃないか」
心の中で呟く。
SNSのタイムラインをスクロールする指先が止まる。
文字が、言葉が、感情が、洪水のように流れていく。
何かを書こうとしても、すぐに止まってしまう。
昔は紙とペンだった。
時間をかけて言葉を探し、向き合い、自分を見つめていた。
今は違う。
キーボードを叩けば、すぐに形にはなるけれど、どこか表面的だ。
感情の奥底にある、本当に伝えたいものが置き去りになる。
それでも私は書く。
誰かに届くかもしれないという、わずかな希望を信じて。
「お前には無理だ」
心の中で、また別の声がささやく。
でも、それを打ち消すように言い返す。
「俺にはできる。俺にしかできないことがある」
コーヒーの湯気が立ち上るカフェの窓際で、パソコンを開く。
画面の向こうには、まだ見ぬ未来が広がっている。
独立しようと決めたのは、誰かを育てることが自分にとっての生きがいだと気づいたからだ。
他人をコントロールするのではなく、共に考え、共に歩む。
それが自分の信じる「育成」だった。
「幸せとは何だ?」
カーソルが点滅する画面の前で、私は考える。
お金か、地位か、安定か――。
いや、違う。
誰かに感謝されること。
共に悩み、共に笑い、誰かの人生に小さな光を灯すこと。
夜、家に帰ってから深呼吸をした。
「何かしてるから、夜に眠れるんだよ」
そう言った友人の言葉が浮かぶ。
書くこと、考えること、そして、祈ること。
全部が、私の生きるリズムなのだ。
「変わるとは、変になることだ」
その言葉に、ふと笑う。
確かに、今までと違う自分に化けることは怖い。
けれど、それを受け入れなければ前には進めない。
独立する。
挑戦する。
そして、誰かと共に生きる。
日本の未来が明るいかどうかは分からない。
でも、私自身の未来は、私が選べる。
春の風がまた窓から吹き込み、目覚ましの音が今日という始まりを告げた。
