「疲れた」
この一言が僕の決まり文句であり、合言葉だった。
家族はもう慣れたもので、この言葉を聞いても何も言わない。
ただ、母だけは決まって「何を食べる?」と問いかける。
「ポテチ」
それが僕の定番の答えだった。
でも、何も言わなくても母は僕の好みを知っていた。
数あるフレーバーの中で、僕が好きなのはシンプルな塩味。
ポテチをポリポリかじりながら漫画を読むのが至福の時間だった。
もちろん、ポテチの塩がついた指は舐める派だ。
大好きな漫画を汚したくないから。
そんな僕の愛読書には、まるで僕と同じようにポテチを食べながら漫画を読むキャラクターが登場する。
漫画の中と現実が重なる瞬間、それは僕にとってちょっとした幸せだった。
一方、父にも欠かせない日課があった。
毎晩、決まって映画を観るのだ。
そしてその相棒は、やっぱりポテチとビール。
まさに「この親にしてこの子あり」——。
そんな僕たちを見てきた母は、ふとつぶやいた。
「疲れた」
