6時50分起床。
まだ外は薄暗く、部屋の空気は冷たい。
久しぶりの早起きだ。
毛布を剥ぐと、余計に寒さが際立つ。
蛇口をひねる。
お湯が浴槽に流れ込み、白い湯気が広がっていく。
足を沈めると、じんわりと熱が染み込んでくる。
昨日の疲れが、少しずつほぐれていくのがわかる。
「朝風呂は贅沢だ」
だが、こんな時間を毎日持つことはできない。
理由は単純だ。
ガス代が高い。
生活はすべて計算の上に成り立っている。
余計な支出はできるだけ削る。
その中で、朝風呂は真っ先に削られる贅沢だった。
「たとえば、10万円が手に入ったとして……」
そう考えてみる。
しかし、その金は家賃に消えるだけだ。
「10万なんて、一瞬でなくなる」
湯を指ですくい、眺める。
指の間からこぼれ落ちる湯を見つめながら思う。
金も同じだ。
一瞬、手にしたように見えても、気づけば消えている。
結局、自分で稼ぐしかない。
「稼ぐ」という行為でしか、現実は変えられない。
だが、その一歩が踏み出せない。
なぜなのか。
勇気が足りないのか?
鏡を見る。
湯気のせいで曇っている。
それでも、ぼんやりと自分の姿が映る。
そこにいるのは、何も変わらない自分。
答えが見えないままの自分。
湯船から立ち上がる。
冷えた空気が肌を刺す。
温かい湯と、冷たい現実。
10万円の価値なんて、その温度差と同じかもしれない。
