朝日が、カーテンの隙間から静かに差し込む。
彼女はまだ、ゲームのエンディングを見届けていた。
画面に流れるスタッフロールは、まるで長い旅の記録。
「間に合わなかったな……」
そうつぶやいて、携帯を開く。
メッセージ履歴に残っていたのは、たった一言。
『また、話そう。無理はしないで』
その人からの最後の言葉だった。
指先が震えながらも、彼女は一言を返す。
もう届かないかもしれないけれど、それでも——。
約束の時間には遅れた。
だけど、伝えられたことは、ほんの少し心を軽くした。
まだ終わらせたくないものがあった。
今の生活、目指す未来、そして、人の可能性。
「誰かの才能を伸ばし、活かす未来をつくれたらいい」
そんな思いが、ふと頭をよぎる。
眠気とともに、朝が静かに満ちてゆく。
やがて、彼女は立ち上がった。
脳内には、いつもの会議が始まっていた。
「そんなこと、やって何になる」
「また人間関係で疲れるだけだ」
否定の声がぐるぐると頭の中を巡る。
でも、もう一人の自分が言う。
「じゃあ、やめる? それとも、やる?」
沈黙。
そして、心の奥で小さくうなずく。
とにかく座って、目を閉じた。
100分——数字にすれば長いが、祈るように思いを馳せる時間は、不思議とあっという間だった。
今日は特別、10人の名前が浮かんだ。
顔、声、仕草。
大切な人たちの姿が、次々と浮かんでは、胸の奥を温めていく。
自分のためより、誰かのための時間の方が、不思議と続けられる。
それはきっと、「誰かの力になりたい」という思いの方が、強く心を支えるから。
記憶のなかで揺れる過去。
あのとき言えなかった言葉。
誤解されたままの想い。
それでも、今日は言ってみる。
「今日も、自分にそっとエールを送ろう」
彼女は静かに立ち上がった。
昼前、同級生からメッセージが届いた。
「また、くだらない話でもしようよ」
ほんの少し迷ってから、彼女は返事を打つ。
「いいね。また無駄話しよう」
最近、名前が出てこないことが増えた。
昔はすらすら言えた芸能人の名前も、今では「あれ、誰だっけ?」と笑い合う。
でもその笑いの中に、なぜか切なさと温もりが同居していた。
時の流れは、あっという間にすぎていく。
老いていく自分を受け入れられない日もある。
けれど、「今日よりも明日がもっと良い日になる」と信じて話し続けること。
一見、無駄に見える会話こそが、未来への糸になる。
だから今日も、誰かと、そして自分と、静かに語り続けるのだ。
エンディングは終わりじゃない。
始まりは、いつだって、少し遅れてやってくる。
