ときどき、頭の奥がシューッと音を立てて、空気が抜けるみたいに静かになる瞬間がある。
考える力も、話す気力も、声にならないまま、泡のように浮かんでは消えていく。
そんな夜、僕は決まってコンビニに向かう。
冷たい蛍光灯に照らされた無音の舞台。
レジの横で、何も考えずに手に取る小さな板チョコ。
ザラリとした銀紙の感触が、なぜかほっとさせてくれる。
食べるためじゃない。
心を戻すために、僕はそれを口に運ぶ。
少しだけ甘く、ほろ苦いその味は、まるで「大丈夫」とささやくように舌の上で溶けていく。
社会は、静かな舞台装置だ。
誰もが役を演じ、誰もがセリフを間違えまいと息をひそめて生きている。
「日本人」としてのふるまい、「社会人」としての正解。
でも、そのすべてが息苦しいのは、僕だけじゃないはずだ。
きっと誰もが、どこかで叫びたい気持ちを抱えている。
助けて、とも、変わりたい、とも言えないまま。
だからせめて僕は、自分だけでも変えていこうと思う。
誰かが見ていなくても、ひとつだけでも、心の奥の声に従って。
明日もまた、僕はチョコレートを買うだろう。
それはただの買い食いじゃない。
世界に抗うための、ささやかで確かな儀式だ。
銀紙を剥がす音が、今日という現実を少しだけ変えてくれる。
そんな気がして僕はまた、ひとかけらを口に入れる。