プロローグ
「A型事業所なんて、もう存在しないと思ってるんです。」
そう呟いたのは、まだ5月の空気が肌寒かったある朝だった。
通所のバスに揺られながら、僕は窓の外に広がるグレーの街をぼんやり眺めていた。
心のどこかでは、今日も“支援”の名のもとに、また失望させられるだろうことをわかっていた。
第1章:名前だけの「就労支援」
最初に違和感を覚えたのは、ほんの些細な場面だった。
雑談のなかで少し空気を読まなかっただけで、職員の顔が曇った。
その後は、仕事中も何かにつけて「ここは社会ですから」「協調性が大事です」と繰り返されるようになった。
まるで僕の存在自体が“障害”であるかのように。
適応できる人間だけを選んで、“従わせる”。
その“選別の場”が、A型事業所なのだと、僕はだんだんと理解していった。
第2章:助成金が支える“支援”
ある日、サビ管がふと漏らした言葉があった。
「人数さえ確保できれば、まあ……なんとかなる」
その言葉が、胸に刺さった。
ああ、これは“就労支援”なんかじゃない。
“経営”なんだ。生きるための“数合わせ”。
調べてみれば、国の助成金が事業所の収益の柱になっているという。
利用者の数、それだけが価値になる世界。
僕たちは人間じゃない。“数字”なんだ。
第3章:顔を見ない支援員たち
その日も、支援員は事務室から出てこなかった。
僕らの作業場には、誰も指導に来ない。困ったことがあっても、手を貸してくれる人はいない。
「何かあれば言ってください」と言うくせに、メールの返事は数日後。
支援のはずが、放置。
責任のはずが、放棄。
「支援って、何?」
誰かに問いかけたくても、その“誰か”がいなかった。
第4章:僕らは知ってほしいだけなんだ
僕が通っていた事業所の支援員たちは、みんな“真面目”だった。
けれど、その真面目さは、“自分を守る”ための防衛線にしか見えなかった。
僕たち障がい者は、自分でこの立場を選んだわけじゃない。
それでも生きていくために、この制度に縋っている。
だからこそ、せめて“知ろう”としてほしい。
目の前の僕たちを、ひとりの人間として見てほしい。
それができないなら、支援員じゃなくてもいい。
ただの「通りすがりの大人」でもいいから、目を合わせて、耳を傾けてほしい。
第5章:それでも僕は、あきらめない
社会に絶望することは簡単だ。
でも、あきらめることは、違う。
静かに、冷静に、僕はこの世界の“変化の兆し”を見つめていきたい。
どこかで誰かが、気づいてくれるはずだ。
この制度の裏にある矛盾に。
この仕組みに取り残された人々の存在に。
だから僕は、今日もバスに乗る。
誰かに届くことを信じて。
エピローグ:これは、誰のための支援なのか
もし、あなたが支援する側の人なら。
もしくは、当事者に関心のある人なら。
僕らの“声にならない声”を、少しだけ耳を澄ませてみてください。
「支援」とは何か。
「人を支える」とは何か。
その問いから始めることが、もしかしたら、新しい一歩なのかもしれません。
