波の名前

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第一章 — 布団の中の世界

朝6時。スマートフォンのアラームが鳴り響く。
けれど彼は起き上がれなかった。

高校3年の春。進路に答えはなく、友人関係は微妙なまま。
「今日はうまく笑えるだろうか」
そんなことを考える日々が、もう何週間も続いていた。

陽太(ようた)は、布団の中で小さく丸まりながら思った。
「このトンネル、どこまで続くんだろう」

第二章 — 小さな芽

季節は巡り、冬が近づくころ。
学校での模試の成績は相変わらず振るわなかった。
けれど、夜の図書館だけは安心できる場所になっていた。

毎晩、黙々と問題集を解いていると、不意にとなりの席の女性が話しかけてきた。
「集中力、すごいね。何を目指してるの?」

陽太は答えに詰まりながら、ぽつりと呟いた。
「わからない。ただ…抜け出したいだけなんです」

彼女は少し笑って、こう言った。
「それでいいじゃん。地面の下の芽って、誰にも見えないしね」

その言葉が、妙に心に残った。

第三章 — 小さな光

そして春。
滑り止めだった大学からの合格通知が届いたとき、陽太は不思議な感情に包まれた。

「うれしい」というより、「ようやく終わった」という安堵。
けれど、心のどこかが知っていた。ここがゴールじゃないと。

入学式の日。彼は人混みの中で、例の女性を見かけた。
名前も知らないあの人。
彼女もきっと、あのときの自分と同じように、「抜け出したい」と思っていたんだろうか。

陽太は一歩、校舎に足を踏み入れた。
歓喜は「報酬」ではない。ただの「通過点」だ。

第四章 — 波のかたち

それから数年。
社会人になった陽太は、仕事で失敗し、自信を失いかけていた。
企画が通らず、上司に叱られ、プレゼンでも噛んでしまった。

ふと立ち寄ったカフェの本棚に、一冊の本があった。

『人生の波に乗る』

その中には、こう書かれていた。
「苦しみは準備であり、歓喜は始まりである」

彼はその一文を何度も読み返した。
ああ、自分はまた“波の底”にいるだけなんだ。
でも、次の波はもう来ている。

最終章 — 波の名前

雨上がりの帰り道。
陽太は空を見上げた。

「どんな波も、名前があるんだろうか」

苦しみの波には、「芽生え」という名前。
歓喜の波には、「始まり」という名前。
繰り返す波に、人は鍛えられ、やがて誰かの岸へと届く。

彼はそっとスマホを取り出して、自分のメモアプリにこう打った。

「今、波の底にいる人へ。
あなたが静かに踏みしめているその地面は、
明日、誰かを支える大地になる。」

彼は歩き出す。
波はまだ続くけれど、もう怖くなかった。

エピローグ

人生は波のように寄せては返す。
その波に、未来が乗っている。
そしてあなたは、その波を、名前をつけながら生きていくのだ。

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