「だから?」と問い返す声が
街角の影で濡れていた
乾かぬままの心を置き去りにして
走り去った朝
曇天の窓を開けながら
間に合えば大丈夫と
自分をごまかす十時の焦燥に
笑ってみせる勇気を
誰もが仕立てている
遅刻は咎められ
残業は讃えられる
その矛盾が日常になるたびに
祈りが一歩 遠のいていく
最悪の夜に差す
ほのかな光が
社会保障という名の
沈黙の返事だったとしても
夢でしか会えない兄の笑顔に
ありがとうと呟くだけで
言葉にならない叫びを
伝えられる気がした
祈りは孤独の呼吸じゃない
壁の向こうから聴こえたのは
静かな慈悲の音だった
「大丈夫」と言えぬまま
誰かの痛みに触れるために
私たちは今日を編んでいる
