【詩】境界に咲く光

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僕の記憶は
母が残した白いマグカップのように
どこか欠けていて、温度だけが残っていた

呼吸をすると
まるで誰かのために用意された「無音」が
肺の奥にしみていく

放課後の教室、
窓辺にいた僕を
影だけが見送っていた日のことを
まだ忘れられずにいる

「不適格」と書かれた名札を
手渡されたわけじゃない
だけど、大人たちの目線が
僕を避けた瞬間が
その証明だった気がした

現実はいつも
僕の発した言葉の輪郭を壊して
「平均」の海に沈めてくる

静寂は
イヤホン越しの鼓動のように
寄せては返し、
僕の耳をぬらす

だけど、夢のかけらは
通学路の植え込みにも咲いていた
だれかが置き忘れたチューリップの球根から
不器用に伸びた茎が、
季節を押し分けて立ち上がっていた

それは希望か?
わからない
だけど、僕の中で「価値」という言葉が
少しだけ音を立てた瞬間だった

壁のような言葉たちも
いつか、
橋になる気がした
傷を撫でるように、
互いの違いを架け渡すように

今日もまた
境界の上に立ち
消えそうな光に
ただ、そっと手を伸ばす

希望はまだ遠い
でもあの人の言葉が
僕に「色」をくれたから

僕は今、
黙ることより
話すことを選んでいる

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